退職代行から連絡が来たときの会社対応|確認事項と手続き

はじめに
退職代行サービスから突然連絡が入り、「本人へ連絡してよいのか」「即日退職を認める必要があるのか」「引継ぎや貸与品の返却はどうすればよいのか」と対応に迷う会社も少なくありません。
退職代行から連絡があった場合でも、その場ですべての要求を受け入れたり、感情的に退職を拒否したりする必要はありません。まずは連絡してきた相手の立場と本人の意思を確認し、退職日、有給休暇、引継ぎ、貸与品、最終給与などを順番に整理します。
注意:
退職代行からの連絡を、本人からの連絡ではないという理由だけで無視したり、感情的に退職を拒否したりすると、別の労務トラブルへ発展する可能性があります。
一方で、連絡してきた相手が民間業者、労働組合、弁護士のいずれであるかによって、相手方が対応できる範囲は異なります。その場で結論を出さず、必要な情報と社内資料を確認してから回答することが重要です。
この記事では、退職代行や突然の退職申し入れを受けた会社が、初動から退職手続きまでに確認しておきたい事項を解説します。
退職代行から連絡が来たときの初動対応
退職代行から電話や書面で連絡があった場合は、その場で退職を承諾したり、反対に受け付けないと回答したりせず、まず必要な情報を確認します。
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連絡してきた相手を確認する
業者名、担当者名、所在地、連絡先を確認し、民間業者、労働組合、弁護士のいずれであるかを整理します。 -
本人の意思と要求内容を確認する
退職届や委任状などを確認し、退職希望日、今後の出社意思、有給休暇、引継ぎ、貸与品などについて何を求められているのかを記録します。 -
雇用契約と社内資料を確認する
雇用契約書、就業規則、勤怠記録、有給休暇の残日数、貸与品、給与の締め日と支給日などを確認します。 -
会社の回答を記録に残す
社内の連絡窓口を人事担当者などに統一し、確認した内容や会社の回答をメールや書面でも残します。
電話を受けた時点で必要な情報がそろっていない場合は、「社内で確認したうえで回答します」と伝え、確認後に改めて連絡する方法で問題ありません。
退職代行からの連絡を受けた場で、退職日や有給休暇などを安易に確定せず、雇用契約や社内資料を確認してから回答します。
退職代行業者の種類によって対応範囲が異なる
退職代行サービスは、主に民間業者、労働組合、弁護士が運営しています。どのような相手から連絡が来たかによって、相手方が対応できる範囲や、会社側の確認事項が異なります。
| 運営主体 | 主な対応範囲 | 会社が確認すること |
|---|---|---|
| 民間業者 | 本人の退職意思や希望事項の伝達が中心 | 本人から依頼を受けていることと、交渉を求められていないか |
| 労働組合 | 団体交渉として退職条件などの協議を申し入れる場合がある | 労働組合の名称、要求内容、団体交渉の申入れの有無 |
| 弁護士 | 本人の代理人として退職日や未払い賃金などの法的な交渉が可能 | 法律事務所、担当弁護士、受任範囲、会社への請求内容 |
民間業者が本人の退職意思や希望を会社へ伝えることと、退職日、未払い賃金、損害賠償などの法的な権利義務について本人を代理して交渉することは、分けて考える必要があります。
弁護士ではない業者が、報酬を得る目的で法律問題について本人を代理して交渉する場合は、弁護士法上の問題が生じる可能性があります。また、労働組合を名乗っていても、組合としての実態が伴っていない場合があることについて、東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反 その2」でも注意が示されています。
ただし、相手方の権限に疑問がある場合でも、退職の連絡自体を無視するのは適切ではありません。退職意思と会社が行うべき手続きを確認し、交渉に当たる内容については相手方の立場や権限を確認して対応します。
本人へ直接連絡してよいか
退職代行から「本人へ直接連絡しないでほしい」と伝えられることがありますが、その要望だけで、会社から本人への連絡が一律に禁止されるわけではありません。
弁護士が本人の代理人として退職手続きを受任している場合は、原則として弁護士を窓口にします。受任通知などに記載された範囲を確認し、本人へ直接連絡する必要がある場合も、先に担当弁護士へ確認する方が適切です。
会社から本人への事務連絡がすべて禁止されるわけではありません。ただし、退職条件や未払い賃金などについて団体交渉が申し入れられている場合は、労働組合を通さず本人から直接合意を得ようとせず、団体交渉の対象となっている事項は原則として労働組合との間で対応します。
民間の退職代行業者に、本人への連絡を法的に禁止する権限が当然に認められているわけではありません。退職意思、退職日、貸与品の返却、書類の送付先などを確認する必要がある場合は、会社から本人へ連絡することも考えられます。
ただし、本人が会社との直接連絡を拒否していることが明確な場合は、必要のない接触を繰り返すべきではありません。上司が何度も電話をかける、私的なSNSへ連絡する、自宅を訪問する、退職の撤回を求め続けるといった対応は、別のトラブルにつながる可能性があります。
本人へ連絡する場合は、退職手続きに必要な事項に限定し、メールや書面など記録が残る方法を使用します。連絡する目的と確認事項を明確にし、感情的な引き止めや退職理由の追及を行わないことが重要です。
退職日・即日退職・有給休暇を整理する
退職代行から「本日付で退職したい」「今後は出社しない」と伝えられることがありますが、今後出社しないことと、本日付で雇用契約が終了することは同じではありません。
会社は、期間の定めのない雇用か期間の定めのある雇用かを確認したうえで、本人が希望する退職日、退職届に記載された日、今後の出社意思、有給休暇の申請内容を整理します。
期間の定めのない雇用では、民法上、原則として解約の申入れから2週間を経過することで雇用契約が終了します。ただし、会社が本人の希望する退職日に合意すれば、それより前の日を退職日とすることも考えられます。
期間の定めのある雇用契約の場合は、契約期間、勤務期間、退職を希望する理由などによって取扱いが異なるため、無期雇用と同じように判断しないよう注意が必要です。
「最後に出社する日」「有給休暇を使用する期間」「雇用契約が終了する日」を分けて整理し、確定した内容をメールや書面で残します。
退職日まで出勤しない場合は、有給休暇の残日数と本人の申請内容を確認します。有給休暇を使用する場合でも、先に退職日を確定してしまうと、原則として退職日より後の日に有給休暇を使用することはできません。
退職日と有給休暇について認識違いが生じないよう、会社が確認した退職日、最終出社日、有給休暇の使用期間を記録に残しておくことが重要です。
年次有給休暇の基本的な取扱いについては、年次有給休暇の管理で会社が確認すべきポイントもあわせてご確認ください。
引継ぎと貸与品返却の進め方
突然の退職では、業務の引継ぎが十分に行われず、顧客対応や社内業務に影響が出ることがあります。退職日までの出社を求めることが難しい場合でも、書面やデータによる引継ぎを依頼することは考えられます。
この場合、単に「すべて引き継いでください」と伝えるのではなく、対応中の案件、現在の進捗、今後の期限、資料の保存場所など、会社が必要とする内容を具体的に提示した方が、最低限必要な情報を回収しやすくなります。
| 確認項目 | 主な内容 | 会社側の対応 |
|---|---|---|
| 業務の引継ぎ | 対応中の案件、顧客対応、今後の期限、資料の保存場所 | 必要事項を整理し、書面やデータでの提出方法を伝える |
| 貸与品 | パソコン、携帯電話、鍵、社員証、制服、社用車など | 返却対象、返却期限、送付先、返却方法を具体的に伝える |
| 情報管理 | 社内メール、クラウドサービス、顧客情報、記録媒体 | アクセス権限の停止や会社情報の保存状況を確認する |
貸与品が返却されていないことと、給与の支払いは別の問題です。貸与品が返却されていないという理由だけで最終給与を支払わなかったり、会社の判断だけで貸与品相当額を給与から控除したりすることは避ける必要があります。
最終給与と退職手続きを確認する
退職日が決まった後は、最終給与、社会保険、雇用保険などの手続きを進めます。
最終給与では、退職月の基本給を日割り計算するか、最終勤怠に残業や欠勤がないか、社会保険料を何月分まで控除するかなどを確認します。退職者から支払うべき賃金について請求を受けた場合は、通常の給与支給日とは別に、労働基準法第23条による7日以内の支払いが必要になることがあります。
退職者の最終給与については、退職者の給与計算で会社が確認すべきことで詳しく解説しています。
健康保険・厚生年金保険の資格喪失日は、原則として退職日の翌日です。資格確認書など会社への返却が必要なものも確認し、必要な届出を進めます。社会保険の資格喪失手続きについては、日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき」でも確認できます。
雇用保険の資格喪失や離職票の手続き、本人へ交付する書類の送付先についても確認します。本人と直接連絡を取らない場合は、退職代行を通じて送付先を確認するか、会社が把握している本人住所へ記録が残る方法で送付します。
退職代行への対応で会社が避けたいこと
退職代行を利用されたことに納得できない場合でも、会社側の対応によって問題を大きくしないことが重要です。
| 避けたい対応 | 実務上の問題 |
|---|---|
| 本人からの連絡ではないことを理由に無視する | 退職意思や要求内容を確認できず、会社の対応が遅れる可能性があります。 |
| 社内確認をせず、その場で承諾または拒否する | 雇用契約、有給休暇、既に合意した退職日などを確認しないまま回答することになります。 |
| 上司や同僚が繰り返し本人へ連絡する | 引き止めや心理的な圧力と受け取られ、別のトラブルにつながる可能性があります。 |
| 引継ぎや貸与品返却を理由に給与を保留する | 引継ぎ・貸与品の問題と賃金の支払いは分けて対応する必要があります。 |
会社として主張すべきことがある場合も、感情的な言葉を使用せず、雇用契約書、就業規則、勤怠記録、貸与品一覧などの資料に基づいて回答します。
本人の申出後に退職代行から連絡があった例
実務上では、本人から直接退職の申し入れがあった後に、改めて退職代行から連絡が入ることもあります。
実際の対応例
本人からの退職申し入れ
従業員から突然「業務を続けることが難しいため、本日付で退職したい」と申し出がありました。
会社は本人と話し合い、引継ぎが必要な業務を確認して最低限の引継ぎ書を作成してもらい、本人が作成した退職届の提出を受けました。そのうえで、本日付で退職する本人の意思を確認し、会社も了承しました。
後日の退職代行からの連絡
その後、退職代行から「有給休暇が残っているため、退職日を変更してほしい」と連絡がありました。
このケースでは、退職日について既に本人と会社が合意し、本人から退職届も提出されていました。
会社は、合意済みの退職日と提出された退職届を確認したうえで、退職日より後に有給休暇を使用することはできない旨を説明し、その後大きなトラブルには至りませんでした。
このように、最初は本人と直接話ができていても、後から退職日や有給休暇について認識が変わることがあります。
「退職予定日の相談だったのか」「正式に退職日まで合意したのか」が後から問題にならないよう、本人の意思、会社の回答、確定した退職日を記録に残すことが重要です。
まとめ
退職代行から連絡が来た場合は、本人が直接連絡してこないことに意識を向けるのではなく、連絡してきた相手の立場、本人の退職意思、会社が行うべき手続きを順番に整理することが重要です。
退職代行から連絡が来たときの会社側チェックリスト
- □ 連絡してきた相手の立場と対応できる範囲
- □ 本人の退職意思、退職希望日、今後の出社意思
- □ 退職日と有給休暇の使用期間
- □ 引継ぎ内容と貸与品の返却方法
- □ 最終給与と社会保険・雇用保険の手続き
- □ 会社と相手方とのやり取りの記録
特に、退職日、最終出社日、有給休暇の使用期間を曖昧にしたまま進めると、後から認識違いが生じる可能性があります。引継ぎや貸与品の返却についても、必要な事項と方法を具体的に伝え、給与の支払いとは分けて対応します。
退職代行からの要求内容や会社の対応範囲について確認したい場合は、社内資料とこれまでの経緯を整理したうえで、労務トラブルへの対応をご確認ください。
