従業員数で変わる労務管理|10人・50人・100人等で必要となる主な対応

① はじめに
会社の労務管理では
従業員を雇用した時点で必要になる手続きのほか
一定の人数規模を超えたときに
新たに必要となる対応があります。
たとえば
労働者を1人でも雇用した場合の労働保険関係の手続き
10人以上になった場合の就業規則の作成・届出
50人以上になった場合の産業医や衛生管理者の選任などです。
このように、会社の人数規模が大きくなるほど
必要となる労務管理も段階的に増えていきます。
ただし、人数基準は制度ごとに異なります。
会社全体で判断するものもあれば
本社・支店・店舗・工場など
場所ごとに判断するものもあります。
また
「常時使用する労働者」
「常時雇用する労働者」
「常用労働者」
「厚生年金保険の被保険者数」など
制度によって人数の見方が異なる場合があります。
単純な在籍人数だけで判断できるとは限りません。
どの制度について確認しているのか
会社単位で見るのか、事業所単位で見るのかを
分けて整理することが重要です。
この記事では、中小企業で確認することが多い
人数規模ごとの主な労務管理上の対応を
実務上の目安として整理します。
なお、以下の内容は
令和8年6月時点で確認できる法令・制度内容をもとにしたものです。
法改正や制度変更により
人数基準や必要な対応が変わることがあります。
実際に手続きを行う際は
最新の法令・行政資料を確認することが必要です。
② 人数規模別に見る主な労務管理上の対応
下記の表では
会社全体・組織全体で判断するものを「会社単位」
本社・支店・店舗・工場など場所ごとに判断するものを「事業所単位」としています。
| 人数規模 | 新しく発生・注意する主な対応 | 判断単位 | 実務メモ |
|---|---|---|---|
| 1人以上 | 労働保険関係の手続き | 事業所単位 | 労働者を1人でも雇用した場合、原則として労働保険関係の手続きが必要になります。 |
| 5人以上 | 個人事業の健康保険・厚生年金保険の強制適用 | 事業所単位 | 法人は原則として人数にかかわらず対象です。個人事業でも、常時5人以上で強制適用となる業種があります。 |
| 10人以上 | 就業規則の作成・届出 | 事業所単位 | 常時10人以上の労働者を使用する事業所が対象です。会社全体ではなく、場所ごとに判断します。 |
| 21人以上 | 高年齢者雇用状況等報告 | 会社単位 | 常時雇用する労働者が21人以上の企業が対象です。毎年6月1日現在の状況を報告します。 |
| 40人以上 | 障害者雇用義務・障害者雇用状況報告 | 会社単位 | 常用労働者数で判断します。令和8年7月以降は37.5人以上が一つの目安となります。 |
| 50人以上 | 産業医・衛生管理者・衛生委員会・ストレスチェック等 | 事業所単位 | 常時50人以上の事業所が対象です。安全管理者は一定業種で必要になります。 |
| 51人以上 | 短時間労働者の社会保険適用拡大 | 会社単位 | 厚生年金保険の被保険者数で判断します。単純な在籍人数ではありません。今後、企業規模要件は段階的に縮小される予定です。 |
| 101人以上 | 障害者雇用納付金、一般事業主行動計画の策定・届出等 | 会社単位 | 障害者雇用納付金は法定雇用率未達成の場合に対象となります。次世代育成支援対策推進法・女性活躍推進法では、行動計画の策定・届出等が必要になります。 |
労働保険は
労働者を1人でも雇用していれば
原則として加入が必要です。
社会保険については
法人事業所は原則対象となり
個人事業所でも
常時5人以上の従業員が働いている法定17業種では
強制適用の対象になります。
また、個人事業所については
現在は常時5人以上の者を使用する法定17業種が対象とされていますが
今後は法定17業種に限らず
常時5人以上の者を使用する全業種の事業所へ
適用対象が拡大される予定です。
ただし、令和11年10月の施行時点で
すでに存在している法定17業種以外の個人事業所は
当分の間、対象外とされています。
実際の適用有無は
業種、事業所の状況、雇用形態、勤務実態、法改正の時期などによって
個別に確認が必要になる場合があります。
③ 10人以上で注意したいもの
10人以上で代表的なのが
就業規則の作成・届出です。
常時10人以上の労働者を使用する事業所では
就業規則を作成し
労働基準監督署へ届け出る必要があります。
ここで注意したいのは
10人以上かどうかは
会社全体ではなく
原則として事業所単位で判断するという点です。
たとえば
本社に8人、支店に6人という会社の場合
会社全体では14人ですが
本社・支店がそれぞれ独立した事業所として扱われる場合は
いずれの事業所も常時10人以上ではないため
就業規則の作成・届出義務の対象にはなりません。
また
「常時10人以上」は
毎日10人以上が出勤しているという意味ではありません。
雇用形態にかかわらず
その事業所で常態として使用している労働者数で判断します。
パート・アルバイトも含めて確認する点に注意が必要です。
④ 50人以上で注意したいもの
50人以上になると
安全衛生関係の対応が大きく増えます。
常時50人以上の労働者を使用する事業所では
産業医の選任
衛生管理者の選任
衛生委員会の設置
ストレスチェックなどが必要になります。
また、一定の業種では
安全管理者の選任も必要になります。
50人基準も
原則として事業所単位で判断します。
そのため
会社全体では80人いても
各事業所が40人ずつであれば
原則として対象とはなりません。
一方で
1つの事業所で50人に近づいている場合は
50人を超えてから慌てて対応するのではなく
40人台後半の段階で準備を始めておく方が安心です。
産業医、衛生管理者、衛生委員会、ストレスチェックなどは
原則として常時50人以上の事業所が対象です。
一方で、短時間労働者の社会保険適用拡大は
現行では「51人以上」が基準となるため
混同しないよう注意が必要です。
⑤ 51人以上で注意したいもの
51人以上で注意したいのが
短時間労働者の社会保険適用拡大です。
ここでいう人数は
単純な在籍人数ではありません。
原則として
厚生年金保険の被保険者数を基準に判断します。
現行では
厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く
一定の短時間労働者が
健康保険・厚生年金保険の加入対象になります。
また、この企業規模要件は
今後段階的に縮小される予定です。
日本年金機構は
令和9年10月から36人以上
令和11年10月から21人以上
令和14年10月から11人以上へ
拡大される予定を案内しています。
パート・アルバイトが多い会社では
現時点で対象外であっても
将来的な影響を確認しておく必要があります。
⑥ 101人以上で注意したいもの
101人以上では
一般事業主行動計画の策定・届出等のほか
障害者雇用納付金の対象になるかどうかも確認が必要になります。
この規模になると
個別の労務管理だけでなく
会社全体として
採用、定着、育児・介護との両立支援、女性活躍などの取り組みを
整理する段階になります。
次世代育成支援対策推進法では
従業員101人以上の企業に
行動計画の策定・届出
公表・周知が義務付けられています。
女性活躍推進法に基づく対応も含めて
この規模に近づいている会社では
早めに必要な対応を確認しておくことが重要です。
⑦ 人数の数え方は制度ごとに異なる
人数規模による義務を確認するときに
特に注意したいのが
人数の数え方が制度ごとに異なるという点です。
同じ「従業員数」であっても
就業規則では事業所ごとの常時使用労働者数
安全衛生関係でも原則として事業所ごとの常時使用労働者数
障害者雇用では会社単位の常用労働者数
社会保険の適用拡大では厚生年金保険の被保険者数を見ることになります。
そのため
単に会社全体の在籍人数だけを見るのではなく
どの制度について確認しているのかを
分けて考える必要があります。
| 用語・基準 | 主に関係する制度 | 判断単位 | 実務上の見方 |
|---|---|---|---|
| 常時使用する労働者 | 就業規則、安全衛生関係など | 主に事業所単位 | 正社員だけでなく、パート・アルバイト等も含め、常態として使用している人数を見る |
| 常時雇用する労働者 | 高年齢者雇用状況等報告、次世代法、女性活躍推進法など | 主に会社単位 | 期間の定めなく雇用される者や、一定期間以上継続して雇用される者などを含めて判断する |
| 常用労働者 | 障害者雇用関係 | 会社単位 | 障害者雇用率の分母となる人数。短時間労働者は0.5人として扱う場合があるなど、制度上のカウント方法に注意 |
| 厚生年金保険の被保険者数 | 短時間労働者の社会保険適用拡大 | 会社単位 | 単純な在籍人数ではなく、厚生年金保険の被保険者数で判断する |
高年齢者雇用状況等報告は
常時雇用する労働者が21人以上の企業からの報告に基づいて集計されています。
障害者雇用については
令和8年6月以前は法定雇用率2.5%
令和8年7月以降は2.7%で算定することが示されています。
⑧ 会社単位で見るものと、事業所単位で見るもの
人数基準には
会社単位で見るものと
事業所単位で見るものがあります。
会社単位で見る代表例は
次のようなものです。
・高年齢者雇用状況等報告
・障害者雇用義務・障害者雇用状況報告
・障害者雇用納付金
・次世代育成支援対策推進法の一般事業主行動計画
・女性活躍推進法の一般事業主行動計画
・短時間労働者の社会保険適用拡大
一方で、事業所単位で見る代表例は
次のようなものです。
・就業規則の作成・届出
・産業医の選任
・衛生管理者の選任
・衛生委員会の設置
・ストレスチェック
・安全管理者の選任
たとえば、会社全体で100人いても
各店舗がそれぞれ20人ずつであれば
安全衛生関係の50人基準は
店舗ごとに確認します。
反対に、障害者雇用や一般事業主行動計画などは
会社全体の人数で確認します。
そのため
人数規模による義務を確認するときは
単に「会社全体で何人いるか」だけではなく
その制度が会社単位で見るものなのか
事業所単位で見るものなのかを
分けて整理することが大切です。
⑨ 月に数回勤務するアルバイトは人数に含めるのか
実務上、判断の相談をよく受けるのは
月に数回だけ勤務するアルバイト・パートの扱いについてです。
「パート・アルバイトも含める」とだけ聞くと
月に2〜3回程度しか勤務しない人も
必ず人数に入るのか
という疑問が出てきます。
この点は、単に勤務日数だけで機械的に判断するのではなく
常態として使用しているといえるかを確認する必要があります。
たとえば
月2〜3回の勤務であっても
毎月継続してシフトに入り
通常の業務運営に組み込まれている場合は
常時使用する労働者数に含めて確認する方が安全です。
一方で、突発的な欠員補充や
一時的なイベント対応のために単発で雇用しただけの者まで
当然に常態として使用している人数に含めるとは限りません。
具体的には
次のような点を確認します。
| 確認ポイント | 見方 |
|---|---|
| 継続性 | 毎月継続して勤務しているか、一時的・単発の勤務か |
| シフトへの組み込み | 通常のシフトや業務運営に組み込まれているか |
| 契約内容 | 雇用契約上、継続勤務が予定されているか |
| 業務上の必要性 | その事業所の通常運営に必要な人員として扱われているか |
| 勤務実態 | 実際にどの程度の頻度で勤務しているか |
そのため、記事や表では
「パート・アルバイトも含む」と整理しつつ
実務では、勤務頻度や契約内容
シフトの組み込み状況などを踏まえて
確認する必要があります。
人数基準は、正社員数だけで判断するものではありません。
一方で、過去に一度だけ勤務した人まで
常に含めるというものでもありません。
重要なのは
その労働者が一時的な勤務なのか
常態として使用されているのかを
分けて見ることです。
⑩ まとめ
労務管理では
従業員を雇用した時点で必要になる手続きのほか
一定の人数規模を超えたときに
新たに必要となる対応があります。
特に
10人以上、50人以上、51人以上、101人以上といった区切りでは
・就業規則
・安全衛生体制
・短時間労働者の社会保険適用拡大
・一般事業主行動計画など
確認すべき項目が増えていきます。
ただし、人数の数え方は制度ごとに異なります。
同じ「従業員数」であっても
会社単位で見るもの
事業所単位で見るもの
常用労働者数で見るもの
厚生年金保険の被保険者数で見るものがあります。
また、法改正や制度変更により
人数基準や必要な対応が変わることもあります。
会社の人数が増えてきた段階では
現在の人数だけでなく
近い将来の増員予定も含めて
必要な労務管理を早めに確認しておくことが大切です。
早めに確認しておく方が対応しやすくなります。
10人、50人、51人、101人などの区切りが近づいている場合は
自社で必要になる労務管理を一度整理しておくことをおすすめします。
